もし、巨万の富を得たら何がしたい? その2 ドリーブ/歌劇「ラクメ」から「鐘の歌」
「ハイCsの殺戮」
ソプラノ:フローレンス・フォスター・ジェンキンス
ピアノ:コズメ・マクムーン
予定していた演奏会が軒並みキャンセル。
無観客配信など、新たな形態で音楽に触れる環境が急に登場したりして
これがどれも見聞きしたいものばかりで時間が足らないなぁ。
と、これまた大きな悩みである。
ただでさえCDやDVDも、まだ聴いていないものが積みあがっている。
今はこれらを整理して聴いてみるチャンス、でもある。
ということで早速実施してみた。
そこで発掘したのがこのディスク。
輸入盤だがCDにちょっとした、
本当にちょっとした日本語解説がついていて
記載ある邦題は「ハイC’sの殺戮」
殺戮!!
すごいタイトルである。
「C」は「ド」を表す。
「ハイC’s」は高い「ド」ということ。
とてもとても高い音があなたを殺してしまう、かもよ。
ということか。
いかがでしたか?
ちゃんとしたレコード会社が「有料で売っている」CDの音声です。
ちゃんとお金払いました。
歌うのは
フローレンス・フォスター・ジェンキンス
という女性。
もちろんプロの歌手ではない。
莫大な遺産を親から引き継いだ彼女
「得意の歌」のレコーディングを行いSP盤を作成。
お金があればレコードも作れる。
あくまでもプライベート盤だったが、後に商業用として発売されベストセラーになったらしい。
久しぶりに、CDで彼女の「洗礼」を受けたのだが
彼女をモデルとした映画「マダム・フローレンス!夢見る二人」のことを思い出した。
2016年公開のこの映画に関しては、なぜか引っかかってこなくて、見たことがなかった。
彼女を演じるのは、なんと「メリル・ストリープ」
映画では指揮者トスカニーニも登場。
(金持ちだった彼女に支援を、ということで登場する)
彼が指揮するドリーブの歌劇「ラクメ」中の超難曲「鐘の歌」を聴き
自分も歌ってみたいと言い出す。
メトロポリタン歌劇場の副指揮者の指導の下、トレーニングを積む。
「素晴らしい!!」???
と、ヒュー・グラント演じるご主人とともにおだてられながら。
ようやく映画も見たのだが、映画の音声と実際に録音したCDの音声が違うことがわかる。
もちろん音程ははずれるが、なんか聴きやすい、のである。
その理由はエンドロールで分かるのだが、使用楽曲欄になんとメリル・ストリープの名前がクレジットされている。
彼女自身も相当な「トレーニング」をしたのだろう。
でも意識して「外す」というのはかなり高度なテクニックなはず。
通常の音程で歌えないと、外すのは難しいので、まずは正当に歌えるように
相当なトレーニングをしたのだろう。
そういえば映画「マンマ・ミーア!」でも素晴らしい歌声を披露していたっけ。
最終的には、あこがれのカーネギー・ホールを借り、リサイタルをしてしまう。
ただ、目的は戦争帰還兵のための慈善公演ということで。
今まで「大金持ちの道楽」で好き勝手なことやっちゃって!
と、思っていたのだが、映画を見てなんだか意識が変わってしまった。
そして、その映画でわかったのだが
彼女自身、音楽的才能が子供の頃からあり、天才児として8歳でピアノ・リサイタル、そしてホワイトハウスでも披露しているのである。
でも病気、そして手に負ったけがのため音楽家への道をあきらめることに。
病気というのは前の夫に移された梅毒だという。
移ってから50年も生きているというのは奇跡的なことで、死の影を背負いながら人生を過ごしていた。
その眠っていた夢がふつふつと湧いてきた、ということなのだろう。
映画は脚色も幾分あるだろう。
(例えば歌は、若い時から歌っていたようであり、年を取ってからではないようだ。)
でも、彼女の生涯を知る上では大変参考になった
もう一度CDを聴いてみる。
やはり「金持ちの道楽」
ということではない、まったく違う感覚になっていた。
モーツァルトの「魔笛」の「夜の女王のアリア」は、これも超難曲だが
あの超高音も、実は音程としては到達しているのである。
これだけでもすごいことだと思うし、やはり音楽的センスがゼロということではないのだろう。
じっくりと聴いた。
彼女はカーネギー・ホールでリサイタルを開いた翌月に亡くなってしまう。
映画では、ご主人役ヒュー・グラントも良いが、ピアニストのコズメ・マクムーン役を演じたサイモン・ヘルバーグが大好演。
ピアノも彼が弾いている。
※CD中の歌劇「ラクメ」の「鐘の歌」。有名なのはこの音声。リリー・ポンスが歌うもの。
本当に難しいと思う。
Lily Pons sings "The Bell Song" from Lakme