録音:1969年 ウィーン
いきなり変なタイトルが登場したが、ちゃんとしたクラシック音楽の作品である。
「手術図」となっているので、その様子を描いた絵、例えばレンブラントが描いた「テュルプ博士の解剖学講義」は名画として有名だが、そのような作品にインスピレーションが沸いて作曲したのだろう。
と思ったが、なんと自身の「実体験」をもとに作曲したのだとか。
マレは「膀胱結石」になってしまったのだ。
「膀胱結石」。
「尿管結石」とか「尿路結石」と一般的に言われるが、たぶんそれと同じものであろう。
私は幸いまだなったことがないが、相当の痛みを伴うらしい。発症は男性の比率が多く、食事や生活を改善しないと再発もしやすいのだとか。
現在、手術で直した、という人は周りにはおらず、薬や超音波などの振動で石を砕く、ということを治療として行うと聞いている。
でも、マレの時代(1656~1728年)は超音波もないから、当然「手術」という方法であっただろう。
しかも、麻酔という技術はまだない。
素のまま腹を切られて石を取り出されるという、想像を絶する治療である。
病院が好きではなく血を見ただけで卒倒しそうになる私。手術を受けたことがある。
もちろん麻酔がある現代である。しかも全身麻酔で安心して受けることができた。
よかった。
でもその時の様子は全く覚えがなくわからないわけで、例えば音楽にしてしまうなんてできない。
でも芸術家魂あふれるマレは作品にしてしまったのである。
麻酔がなかったから、できたのかもしれない。
音楽もなんだか怖そうだ。
でも意外にかなりコミカルである。
以下、演奏の様子。
Marin Marais: le tableau de l'opération de la taille
音楽と一緒に語りが付くのだが、その語りは、最初
”手術台の様子。それを見て震える。
手術台に登ろうと決心する。上まで行く”
そりゃそうでしょう。相当怖いですよね、きっと。
音楽もちょっとおどろおどろしく、マレの気持ちがよくわかる。
でも
”降りてくる”
手術台に上がったものの、降りてしまった。
ああ、やはり耐えられないですよね。
音楽もちょっと情けなく下降して表される部分。
で
”真剣に反省
腕と足に絹糸が巻き付けられる”
と、決意を新たに手術台に上がることに。音楽は糸をクルクル巻くな感じに。
そして
”いよいよ切開。鉗子を挿入する。石が取り出される
声も出ない。血が流れる”
音楽は激しく刻まれるところ。
相当痛い。痛いに決まっている。声も出ないくらい。
私なら気絶している。
そして
”絹糸が外され、寝台に移される”
静かな音楽になる。
終わった。
続いて明るい音楽が登場する。
これは「快癒」と呼ばれて、回復した喜びを表している。
今から比べれば、生命を守るためではあるが危険な、そして、おそらく消毒という技術も高くはなかっただろうから、回復するということはかなり奇跡的なことであったのかもしれない。
それを見事乗り越えたマレ。
命を懸けた、他の音楽家にはできない、貴重な出来事を音楽で表現するチャンスをものにした。
自ら望んだわけではないのだが。
あまり作品を耳にする機会はないかもしれないが、オペラやヴィオール(ヴィオラ・ダ・ガンバ)の作品を多く残し、ヴィオールの名手として、ルイ14世の宮廷でも活躍した。
世間は今、新型コロナウィルスで大騒ぎになってしまっている。
健康には気を使わないといけない、と思った今日この頃である。
※CDには他にも「常軌を逸したカプリッチョ」(ファリーナ)、「フェンシング指南」(シュメルツァー)という面白い曲も収録されている。