現代音楽とビートルズ。その編曲の妙味 ベリオ(編曲)/「ミッシェル」他
ベリオ(編曲)/「ミッシェル」「Ticket to Ride」「イェスタディ」
(ベリオ/トランスフォーメーションから)
指揮:アイヴォー・ボルトン
ソプラノ:ソフィア・ブルゴス 他
イタリアの現代音楽作曲家。
そして「ミッシェル」「Ticket to Ride(涙の乗車券)」「イェスタディ」
といえばビートルズ。
ベリオがビートルズの楽曲を編曲していた。
接点が無いとも思えるが。
ベリオのCDは唯一、この1枚が手元にあるだけ。
それだけ彼と私は疎遠な関係、なのである。
でもかなり昔。彼の作品をテレビで見たことがあったのを思い出した。
それは1995年。
「ピエール・ブーレーズ・フェスティバル」という現代音楽が連日演奏される催し。
そんな、とてもマニアックな演奏会を、NHKがほぼすべて収録をして放送をした。
ブーレーズは指揮者でもあり、自らが現代音楽の作曲家であるエキスパート。
一流の音楽家がこのために日本に集まった。
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/archive/det.html?data_id=5369
それも、もちろんテレビで放送されたのだが、驚いた。
いろんな曲からの旋律をパクって張り付けたようなものだったから。
マーラーの交響曲第2番の第3楽章を軸に、ストラヴィンスキーの「春の祭典」やラヴェルの「ラ・ヴァルス」などの断片が次々聞こえる。
そして、8人の歌い手がマイク片手に、英語でなにやらつぶやいている。そして時には叫ぶ。
「なんじゃこりゃ、気が狂いそうになる」
というのが当時の素直な感想。
Zimmerman Photoptosis & Berio Sinfonia - Royal Concertgebouw Orchestra [HD]
このような作品を作っているベリオ。
なぜまたビートルズに興味を持ったのか?
ベリオの奥様はキャシー・バーべリアン、という歌手。
彼女と娘がビートルズの音楽に熱中してしまい、その楽曲を歌うためにベリオをはじめとした作曲家に編曲を依頼したという。
そして集まった楽曲を1967年のベネチア・ビエンナーレで披露した。
ベリオは「ミッシェル」「Ticket to Ride(涙の乗車券)」「イェスタデイ」の3曲を編曲。
ベリオのことだから、叫んだり、わめいたりする、バリバリの現代音楽風になってしまったのか?
と思ったのだが、バッハの音楽のような感じ。チェンバロも登場して格調高い雰囲気。
「ミッシェル」はインスピレーションがさらに湧いたのか、もうひとつバージョンがあって、フォーレなどのフランスの音楽風になる。
彼は編曲の仕事もやっていて、このディスクにも入っているが、バッハやブラームスの作品も編曲している。
これも違和感がなく、原曲とはまた一味違う、あらたな魅力が発見できる。
編曲もの好きな私。
ベリオの見方が大きく変わってしまった。
例の「シンフォニア」を再び聴いてみたが、「なんじゃこりゃ」と感じつつも、面白く聴けるようになっていた。
そもそも、こんなアイデアを出して作品に仕上げようとするのは相当な感性やテクニックがないとできないであろう。
ある意味一つの編曲と言ってもいいかもしれない。
すでによく知られた作品に対して、作曲家の思いは崩さないように、うまい具合にバランスをとって新しい命を吹き込む編曲。
また、名曲はそのように手を入れられても、もとのニュアンスを失うことなく存在する、ともいえる。
もう少しベリオのことも勉強をしてみようと思った。
それにしてもこのCD。
2枚組で、ビートルズが入った2枚目はたった10分しか収録されていない。
うーむ、もったいない。
キャシー・バーべリアンが歌う「Ticket to Ride」。
これはアンドリーセン編曲バージョンだが、ユーモラスなところもあって、なかなか面白い。
Cathy Berberian | Ticket to ride | The Beatles