ワクワク! クラシック音楽の泉

堅苦しいけど奥深い「クラシック音楽の世界」に新しい出会いを求めて日々活動中。名曲(迷曲)、名演(迷演)、珍曲の発見など、個人的にワクワクしたことを綴っていきたいと思います。

不気味な音程が虜になる シューベルト/ピアノ・ソナタ 第14番

f:id:HerbertvonHarayan:20200511175815j:plain

シューベルト/ピアノ・ソナタ第14番 イ短調 D.784

演奏:ウラディーミル・アシュケナージ

録音:1966年 6月、 デッカ・スタジオ(ロンドン)

 

とても不気味な曲である。

CDのプレイボタンを押すなり、そう思った。

 

シューベルトのピアノ・ソナタ作品の中でも、おそらくあまり演奏されない

マイナーな作品ではないかと思う。

 

とはいっても、私自身、シューベルトのピアノ・ソナタ自体

あまり聴く機会が多くないので、正解かどうかわからないのだが。

 

シューベルトのピアノ・ソナタ

なぜか選択肢のプライオリティが低くなってしまっている。

でも、決して毛嫌いしているわけではないのだが。

 

 

今回、この作品を聴くことになったのは

CDに一緒に入っている他の作品を聴くのが本来の目的。

シューベルトの12のワルツ。

この作品自体、マイナーではないかと思うが。

 

そのついでに、偶然聴いたということで

でも、しばらくは、その偶然のほうを繰り返し

じっくり聴いてしまっていた。

 

こういう新発見もよくあることで

これだから、面白いし、どんどん深みにハマる。

 

とても不気味、である理由は

冒頭の音型

♪ ラ・ミ・レ♯・ミ

 

これが不安定な音型であり、不気味さを感じる。

 

これを聴いて、ふと思い出したのは

人造人間キカイダー」に出てくる「プロフェッサー・ギル」。

 

かなり昔のヒーロー番組。

ギルは悪の結社「ダーク」を率いる人物で、青白い光に照らされている姿は

子供心に相当な恐怖を抱かせる演出であった。

 

彼は悪魔の笛を奏でる。

その音を聞いたキカイダーは突如苦しみ始めてしまう。

 

それなら常に吹き続ければ楽勝ではないか、という大人になってからの

ツマラナイ考えが、今では浮かんでしまうのだが。

 

悪魔の笛は同じように変化する音型が使われていたことを思い出した。

 

そういえば

音楽の授業で使うリコーダーで、悪魔の笛の音を吹くと

周りにいるクラスメイトがキカイダーのごとく苦しみだす

という、遊びもやっていた。

 

昔話はさておき

不気味さを感じるのは、冒頭だけでなく

まもなく、そして随所に現れる、高低でゆっくり繰り返えされる低音もそうだ。

 

鼓動

のようである。

 

ゆっくりなので恐怖感を持った、というより、落ち着いた雰囲気なのだが

何かを待ち構えているような。

 

でも、鼓動は突如早く、そして音量は小から大へ。

恐怖が目前に迫ってきたような感じである。

 

この作品が生まれたとき、どんな精神状態だったのか?

シューベルトが26歳の頃(1823年)の作品だという。

 

若い。

若くして、人生を重ねてきたような

こんな不気味さを感じる曲を書いたのか。

  

どうも病気や経済的な苦しさもあった頃のようで

彼の人生においても、かなり暗く沈んでいた頃らしい。

 

そういえば、この作品より前に作られた

「魔王」は、もっともっと恐怖を感じるが

音楽における表現能力の高さには唸らされる。

  

若かった彼も5年後にはこの世を去ることになる(1828年)。

そして、死後、11年経ってようやく出版され、世に出た。

 

第2楽章は

打って変わって、ゆったり、静かに、美しい曲調。

恐怖が過ぎ去り、平和が訪れた、という雰囲気か。

シューベルトの中でもかなり美しい表現。

 

第3楽章は

短調に戻るが、

またやってきた恐怖、というより

息急き切ったような速さと、激しく上下する音。

そして、途中顔を出す明るさ。

でもこれは満面の笑みとは違う、複雑なもの。

音型がやはり不安定な様子を醸し出す。

 

しばし、取りつかれたように聴き続けてしまった。

 

シューベルトのピアノ・ソナタ

こんな出会いもあるので、もうちょっと聴く機会を増やしたい

と思った。

 

そして、プロフェッサー・ギルの悪魔の笛の音を

スマホのピアノアプリ鍵盤で奏でて、ひとりニヤニヤする自分がいた。

 

 

※CDは若いアシュケナージの、かなりパワフルな表現。

 恐怖感をより高めている。