ワクワク! クラシック音楽の泉

堅苦しいけど奥深い「クラシック音楽の世界」に新しい出会いを求めて日々活動中。名曲(迷曲)、名演(迷演)、珍曲の発見など、個人的にワクワクしたことを綴っていきたいと思います。

王家の前で上演されたユニークなオペラ ラモー/歌劇「プラテー」

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それにしても不気味なものが写ったジャケットである。

ジャケ買いは決してしないような。

 

ジャン=フィリップ・ラモー

1683年に生まれ、1764年に亡くなった。

 

先回書いたリュリの後に大活躍した音楽家

ルイ15世の宮廷作曲家に任命されるという華やかな職歴は

時代も役割もそれを表している。

 

でも、ラモーという人物を認知したのは、私の人生のなかでは

かなり最近のことである。

この時代の作曲家の作品を演奏する音楽家が増え

CDやコンサートでも、その作品が取り上げられるようになったことが大きい。

 

昔は、すごく単調に思っていたこの時代の音楽。

バロック名曲集というようなレコードに納められていた数々。

 

それは大オーケストラが心地よく演奏する

「我が家の夕食のBGMにピッタリだわ」

と、いうようなものであったが。

 

 ※ここでいう「我が家」とは、BGMにぴったりすると想像したイメージ

  テーブルには真っ白なクロスが掛けられ、銀色のカトラリーが整然と並び

  美しい料理が盛り付けられた皿が次々と運ばれる。。。

  当然、私自身の家の夕食ではない。

 

今となっては、当時の楽器を用いたり再現したり、また演奏も当時やっていたであろう技法(ピリオド奏法と呼ばれるもの)で行うものがほとんどである。

 

それが意外にも「過激」で「刺激的」なもの、なのである。

 もしかしたら「やりすぎ?」というのもあるかもしれない。

なにせ当時の録音は残っていないので100%そのままかどうかはわからない。

 

これを夕食のBGMなんかにしたら、おそらく落ち着いて食べることはできず

消化不良を起こすのではないだろうか。

 

抱いていたイメージがガラッと変わってしまって

とても面白く感じるようになり、聴く機会も多くなった音楽。

 

ただ、オペラはちょっと手ごわい存在で

時間も長いものが多かったり、物語も神話だとかをベースにしたものだったり。

 

なにせヴェルディプッチーニビゼーなど

誰かが殺されたり、愛に溺れてしまって破滅したり、裏切ったりするような

昼メロのようなドロドロ血生臭いもの。

 

音楽も、ソリストが高度なテクニックと声量で圧倒するようなもの。

 

圧倒的に人気があり、広まったのはそれらのオペラ。

ドキドキワクワクするし、「いやぁ、凄かった!」

という満足感が高いものになる。

 

ラモーが作った「プラテー」というオペラ。

最初に紹介した不気味なものが写ったジャケット。

登場人物は人間ではない。

物語はやはりこの時代に多い神話の世界である。

 

そして舞台はなぜか「沼」である。

主人公「プラテー」は沼の妖精。

あのジャケットに写った生き物は

「妖精」なのである。

 

ティンカーベルとは程遠い。

 

まあ、最近のオペラでは演出も「置き換え」といって

舞台の時代考証とは全く次元が異なるものはたくさんある。

以前紹介したヘンデルの「リナルド」は

ロック歌手のそっくりさんばかりが登場する。

これはこれで面白いけど。

herbertvonharayan.hatenablog.com

 

妖精の姿も面白いが、物語もなかなか面白いのである。

神様(ジュピテル)の嫉妬深い妻(ジュノン)の怒りを誘うようなこと

つまりは騙す芝居を打って妻を冷静にさせようとする、というのが大筋。

その芝居の犠牲になってしまうのが悲しいかな

気味が悪い妖精「プラテー」である。

 

騙すことで物語が進行していくのには

ヨハン・シュトラウスの喜歌劇「こうもり」があり、

「それはシャンペンの酔いのせいさ」

ということで明るくお開きになるが

「プラテー」はハッピーエンド的な終わり方ではない。

 

最後はこの気味悪い妖精に同情してしまっている自分がいる。

 

この時代にこんなユニークな喜劇性があるオペラ

(喜歌劇というジャンルはまだない)

があったのは驚きである。

そして、この歌劇をルイ15世の息子とスペイン王女の婚礼のお祝いのために上演したという。

なんと懐が深い王族なのだろうか。

 

物語だけでなく、音楽も面白い。

「クワッ、クワッ」というように歌うところがあるのだが

フランス語の”Quoi”(なぜ?の意)” ”Vois”(見て!の意)など

をカエルたちの鳴き声として表し、アクションも面白い。

 

 

パリ・オペラ座の公演の模様だが、ピットにはルーブル宮音楽隊が入り

指揮はマルク・ミンコフスキが務める。

当時の音楽の演奏するメンバーとしては最高峰である。

やはり刺激的な演奏でワクワクする。

 

ラモーの時代は

ドイツでは、ラモーの2歳年下のJ・S・バッハ(1685年生まれ)が活躍した時代。

片や、神に捧げるための音楽を作っていった作曲家。

そして

片や、王族のために贅を尽くした大掛かりな演出と、ちょっとおふざけも入った音楽を作った作曲家。

のようだが

ラモーは後世の作曲家たちに大きな影響を及ぼした「和声論」を出版したことも忘れてはいけない。

 

今では、両者の偉大な音楽に、当時の演奏に近いであろう演奏で、多く触れることができる時代になったことをありがたく思う。

  

【ワクワク!DVD】

ラモー/歌劇「プラテー」

 

ポール・アグニュー(プラテー)

ミレイユ・ドゥランシュ(フォリー、タリー)

ヤン・ブロン(テスピス、メルキュール)

ヴァンサン・ル・テジエ(ジュピテル)

指揮:マルク・ミンコフスキ

演奏・合唱:グルノーブルルーブル宮音楽隊・合唱団

収録:2002年2年 パリ・オペラ座ガルニエ宮)でのライブ