ワクワク! クラシック音楽の泉

堅苦しいけど奥深い「クラシック音楽の世界」に新しい出会いを求めて日々活動中。名曲(迷曲)、名演(迷演)、珍曲の発見など、個人的にワクワクしたことを綴っていきたいと思います。

ムダ知識から出会った作品 リュリ/テ・デウム

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昔の話

回答者が驚いたり納得したときに、座席前のボタンを押すと

「へぇ、へぇ」という音がで出て、その点数の高さを競うというテレビ番組があった。

 

「ガッテン、ガッテン」

ではない。

 

明日使えるムダ知識をあなたに

というキャッチフレーズ。

 

「ムダな知識を得たい」

そして、その番組は視聴者からの投稿で成り立っていたので

自分の「ムダな知識を世に広めたい」

というニーズもあったということ。

 

今ではテレビ番組の力を借りずとも

SNSなどで誰もが簡単にムダ知識を発信ができる環境が整っているので

きっとたくさんのムダ知識が溢れているはずである。

 

今でも形は違えど、同じような根底に基づくテレビ番組が放送され

人気があるようだ。

もちろん私も大好きなのであるが

振り返ると、この「へぇ」の番組がその走りだったのではないだろうか。

 

「へぇ」にはクラシック音楽関係のネタも沢山出された。

 

例えば

「楽譜に指揮者が倒れてしまうという指示が書かれた曲がある」

とか

シューベルトは自分が作った曲がうまく弾けなくて怒り出した」

など

私自身「へぇ、へぇ」というボタンを押しまくってしまったものがあった。

 

指揮者が倒れてしまうものはカーゲルという作曲家が作った「フィナーレ」という曲。

実際に、指揮する飯森範親さんが苦しみだして倒れてしまうという

コンサートの模様が放送されて、その様子はすごく興味深かったし

飯森さんの演技には拍手を送ってしまった。

 

シューベルトが怒ったのは「さすらい人幻想曲」である。

確かに弾くのは難しいらしい。

 

「指揮棒が刺さって死んだ人がいる」

というのも「へぇ、へぇ」だった。

 

あの細くて先がとがった指揮棒。

大勢の人の直近で激しく振りまくられる棒。

よく考えれば、すごく危ないことをやっている。

 

「指揮棒が刺さって死んだ人」は

ジャン=バティスト・リュリ

ルイ14世のお抱え宮廷楽長として大活躍し、多くの作品を残した作曲家。

 

死んだ人、というのも「へぇ」だが

リュリの時代の指揮は、おなじみの指揮棒を手に持って振るのではなく

長い杖のようなものを地面にたたきつけてテンポをとっていたということも

「へぇ」だった。

そんなことは音楽の授業でも教えられることはなく、その番組で初めて知ることになった知識。

 

そういえば鼓笛隊の指揮者は

今のような指揮棒ではなく、長い棒を振って先頭を歩いている。

地面にたたきつけてはいないが。

それは、その昔の指揮棒の名残なのであろうか?

 

指揮棒がささる原因となった曲が「テ・デウム」。

リュリの長男の洗礼式のために作曲され、1677年にルイ14世の御前で初演された。

ルイ14世は大変気に入ったようである。

 

悲劇は起こるのはその10年後。

もともと短気であったというリュリ。

何か気に入らないことでもあったのか、いつもより荒々しい指揮

つまり杖のような指揮棒をドンドンと、荒々しく床に打ち付けていたところ

誤って床ではなく足の上に下ろしてしまった。

その傷が原因で、2か月半後に亡くなってしまう。

 

「テ・デウム」は120名以上の演奏者を必要とするという曲で

太陽王ルイ14世の輝かしい時代にふさわしいようなもの。

そんな大規模編成であれば、指揮棒で相当強く床を打ち付けて

大きく音を立てないとテンポが揃わないということも考えられる。

 

華やかでパワフルなファンファーレとともに開始され

この音楽が奏でられた華やかな時代に思わず引きこまれる。

中間部では声楽ソロとオーボエ、そしてオルガンが織りなす美しく叙情的な旋律が

大部分を構成し、決して力で押しまくるようなことばかりではない。

もちろんフィナーレは輝かしく盛大に終えられる。

合唱も聴きどころで、かなりの人数で構成される2重合唱は迫力がある。

 

それにしても、長い棒で床を打ち付けていたら、

ドンドンとやかましくて綺麗な音楽に支障をきたすのではないかと思うのであるが

実際はどうであったのだろう。

 

リュリが死んでしまったことが原因で

指揮棒が今の形態になった

ということではないらしいが

こんなことで命を落とすとは、リュリも

今の指揮棒が欲しかった

と天国で思っているのかもしれない。

  

【ワクワク!CD】

リュリ/テ・デウム

指揮:ジャン=フランソワ・パイヤール

ソプラノ:ジェニファー・スミス、フランシーヌ・ベサック

カウンターテノール:ツェールガー・ヴァンデルシュテーン

テノール:ルイ・デヴォー

バス:フィリップ・フッテンロッハー

合唱:ヴァランス<ア・クール・ジョワ>合唱団

演奏:パイヤール管弦楽団

録音:1975年頃